「左利きは矯正したほうがいい?」店長として、ひとりの左利きとして思うこと

「左利きは矯正したほうがいい?」
お子さんが左利きの場合、一度は頭をよぎる疑問かもしれません。
左ききの道具店の店長である私も、子どもの頃に「矯正」を経験したひとりです。今回は、自分の体験をもとに、左利きの子どもをどう見守っていけるか、個人的な考えをお話ししたいと思います。
<まずひとこと>
「矯正」という言葉には、本来“間違いを正す”というニュアンスがあるため、できればあまり使いたくありません。ただ、ここでは「右手を使うよう強制する」という意味を簡潔に表現するため、この言葉を使っています。
まず結論:私は「できるだけ矯正しない方がいい」と思っています
もちろん、左手を使うことで不便を感じる場面があるのは事実です。
でも、私自身の体験や、多くの左利きのお客さまから聞いたお話をふまえると、無理に矯正するよりも、その子の自然な使い方を尊重した方が、のびのびと育つのではないかと感じています。
利き手もその人の一部です。それを変えようとすることは、その人らしさを否定することにもなりかねません。
今も忘れられない矯正の記憶
現在40代の私が保育園に通っていた頃、年中に進級し年配の先生が担任になりました。最初の給食の時間に左手でスプーンを持って食べていたら、突然こう言われました。
「左手を使うなら、明日から給食は食べさせません!」
その場で大声で叱られたあの出来事は、何十年経った今も、胸がぎゅっとなるほどはっきり覚えています。なぜ左手を使ってはいけないのかわからず、子どもながらに理不尽さを感じました。

小学校に入ると、今度は親から「文字は右手で書くように」と繰り返し言われました。左で書きたかったけれど、それを我慢して右手で書くのはとても苦痛でした。
あるときからは、学校ではこっそり左手で書くようになりました。(幸い先生にはとがめられませんでした)
家ではそれが見つかって怒られ、泣きながら右手で宿題をしたこともあります。
最終的には親があきらめたので左手で書いていますが、当時の悔しさは今でも心に残っています。
現代では信じられないかもしれませんが、かつてはそういった左利きに対する矯正が当然のように行われていました。
年配のお客さまからは「左を使うたびに手を叩かれた」「左手を使わないよう包帯でぐるぐる巻きにされた」などさらに壮絶な経験談を聞くこともあります。
矯正はなぜ行われていたのか
昔は「左利き=行儀が悪い」「しつけがなっていない」と思われることが多かったようです。
実際、私の両親も祖父母から「左利きはみっともない」と言われていたそうで、世間体を気にして矯正をしたと聞きました。
でも、現代ではずいぶん考え方が変わってきました。
左利きはその人の個性のひとつであり、無理な矯正は子どもの発達に影響を与える可能性がある。そうした認識が、幼稚園・保育園や学校にも広がってきています。
矯正されてよかったこと…は、ある?
たしかに、箸や筆記具を右手で使えるようになったことで、右利き用の道具や環境に適応しやすくなった面はあるかもしれません。
でも、それは「本来の自分らしさを犠牲にして、社会に合わせた結果」でもあると言えます。
たとえば、右利きの人が「今から右手を使うのを禁止します。右手を使ったら罰を与えます」という状況になれば、多くの人が強いストレスを感じるはずです。それと同じことを、子どもに強いてしまうのは、やはり負担が大きいように思います。
「世の中は右利き向けにできていて、左利きのままでは不便なんだから早く直してやった方がいい」という考えも一理あるとは思いますが、
私の場合「左手を使って感じる不便さ」よりも「本当は使いやすい左手を封じられるストレス」の方がずっと強いものでした。
無理な矯正がもたらすもの
無理に右手を使うよう強制されると、おそらくうまくできない動作が増えるでしょう。
すると「自分は不器用なんだ」「何をやっても上手くいかない」と、間違った思い込みをしてしまうことがあります。
実際にお客さまからも、「子どもの頃から、不器用だと言われ続けてきた」「自分は不器用だから・・」という声を聞くことがあります。そんなふうに、自己肯定感や自信を傷つけてしまうのは、本当にもったいないし、悲しいことです。

もちろん「子どもの頃に矯正されておいてよかった」という方もいらっしゃると思いますし、時には完全にご自身の意志で利き手を変えたという方のお話を聞くこともあります。
それを否定するつもりは一切ありませんが、矯正が人によってはとても負担の大きいことで、心に傷跡を残すことも多いというのは知っておいていただけたらと思います。
子どもにとっていい環境とは?
これはあくまで私の主観なのですが、大切なのは、お子さんが「自然体」でいられることではないでしょうか。そのために、私が大事だと思うのは以下の3つです。
1. よく観察すること
子どもの動作をよく見て、どんなことが得意あるいは苦手なのか、どちらの手を使っているかなど、見つけてあげてください。

2. 対話すること
年齢に応じて「どんなことが楽しい?」「どちらの道具が使いやすかった?」「どんなことがやりづらい?」などいろんなことをお話してみてください。決めつけず、本人の感覚を尊重してあげてください。

3. 道具は少しずつ
店頭などでもよくご相談いただきますが「左利きだから全部左利き用で揃えなきゃ!」と身構えなくても大丈夫です!
動作によっては右手のが作業しやすかったということも意外に珍しくありません。無理なく必要なものから順番に用意していけばOKです。

気軽にご相談ください
左ききの道具店では、イベントやストア店頭などで、実際にお話しする機会もあります。
また、お問い合わせフォームやSNSなどでも、お気軽にご相談ください。
私は発達や教育の専門家ではありませんが、自分自身の体験、そしてたくさんの左利きのお客さまから聞いた声を通じて、できる限りのアドバイスをお届けしたいと思っています。
もしお困りのことががあれば、いつでも声をかけてくださいね。





